東急文化会館 ― 古き良き渋谷の記憶

渋谷文化会館

いまの渋谷といえば、ガラス張りの高層ビルや華やかな大型商業施設を思い浮かべる人が多いでしょう。けれど、ほんの数十年前の渋谷には「東急文化会館」というランドマークがありました。映画館やプラネタリウム、レストラン街がひとつになったこの建物は、昭和から平成にかけて渋谷の象徴であり、多くの人々の青春を彩った場所でした。友達と映画を観た帰りに喫茶店へ立ち寄ったり、恋人とプラネタリウムで星を見上げたり――そんな思い出が、東急文化会館にはぎっしりと詰まっていたのです。

目次

東急文化会館の概要

東急文化会館は1956年に開業し、渋谷駅ハチ公口から徒歩数分の坂道に位置していました。地上9階・地下3階の大規模な複合ビルで、中には映画館「東急名画座」や「五島プラネタリウム」、さらに多彩なレストラン街やショッピングフロアがありました。
正面玄関をくぐれば、吹き抜けのロビーに映画ポスターやイベント案内が並び、まるで“文化の交差点”のような空気を漂わせていたのです。

70年代の面影

1970年代の写真を見ると、エントランス前には長髪にベルボトム姿の若者たちが映画の公開を待ちわびて並ぶ姿が写っています。当時大ヒットした『スター・ウォーズ』の初公開時には、会館の前に長蛇の列ができ、徹夜組まで現れたと言われます。夜の上映を観終えた後、屋上の展望台に上がり、東京の夜景を見下ろす――そんな楽しみ方も東急文化会館ならではでした。

当時の役割と街の空気

東急文化会館は、渋谷における「娯楽と学びの殿堂」でした。映画館で話題作を楽しみ、プラネタリウムで星空の物語に耳を傾け、レストラン街で食事をする――そんな一日がここで完結したのです。
ロビーにはいつも多様な人々が集まり、上映ポスターやプラネタリウムの案内板を眺めては、次の休日の計画を立てていました。

80年代の東急文化会館

1980年代には、アイドル映画や青春映画の舞台として文化会館はさらに注目を集めました。パンフレット売り場には当時流行したカラフルな写真集が並び、女子高生たちは映画の半券を手帳に貼って思い出を残していました。
また、プラネタリウム「五島プラネタリウム」はデートスポットとして定番化。満天の星の下で「プロポーズされた」というエピソードまであり、まさに青春の記憶と深く結びついていたのです。

渋谷の象徴としての東急文化会館

文化会館は単なる商業施設にとどまらず、「渋谷=文化の街」というイメージを形づくったシンボルでした。子どもにとっては社会見学で訪れる学びの場、大人にとっては娯楽の拠点、恋人たちにとっては特別な時間を過ごす舞台。誰にとっても思い出の一場面を提供する存在でした。

90年代の変化

1990年代に入ると、渋谷が若者文化の最先端として注目される中でも、東急文化会館は変わらぬ人気を保ちました。洋画の大作からミニシアター系の作品まで上映し、映画ファンを惹きつけ続けたのです。
一方で再開発の話が進むにつれ、「あのプラネタリウムがなくなるなんて信じられない」という声も多く聞かれました。会館はこの時代、ノスタルジーと新時代の狭間に立たされていたのです。

渋谷の風景

消えゆく建物と再開発

2003年、ついに東急文化会館は閉館を迎えます。最後の日、ロビーには「長い間ありがとうございました」の垂れ幕が掲げられ、かつてのポスターや写真が展示されました。館内を歩きながら「ここで初めて映画を観た」「ここで星を見上げた」と語り合う人々の姿は、まるで建物そのものが別れを惜しんでいるようでした。

写真に残された最後の姿

閉館イベントでは、70年代の映画公開ポスター、80年代のプラネタリウム案内、90年代のレストラン街の広告が一堂に並べられ、まさに「時代のアルバム」となりました。黄ばんだチケット半券や、色褪せたパンフレットが並ぶ展示は、多くの人にとって青春を呼び覚ますタイムカプセルだったのです。

思い出の断片

「初めて観た映画は東急文化会館だった」「プラネタリウムの下でデートしたことを忘れられない」――そんな声はいまも数多く残っています。

小さな記録が語る時代

パンフレットの余白に友達の落書きが残っていたり、レストラン街のメニュー表を取っておいたり。そうした小さな紙片や記録が、東急文化会館が単なる建物ではなく、人々の人生の一部だったことを雄弁に物語っています。

まとめ

東急文化会館は、映画、星空、食事、そして人々の思い出をすべて包み込んだ渋谷の象徴でした。いまはその姿を見ることはできませんが、チケット半券や広告、黄ばんだ写真の一枚一枚に、古き良き渋谷の空気が息づいています。
再開発で姿を消した後も、東急文化会館は人々の心の中に残り続け、渋谷を語るときに欠かせない存在であり続けるでしょう。

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